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【エデン】2025/7:お題「鍛錬の間」 - あさぎそーご

2025/07/15 (Tue) 18:07:07

気付いたら2か月過ぎてたので投下しておきますc⌒っ.ω.)
いつも通り、〆切なし・自由参加です

※鍛錬の間=時々出てくる練習ができるダンジョンのこと。洞窟型。

以下本編より抜粋

 鍛錬の間とは。
 浅瀬も浅瀬、殆ど危険のない超お手軽ダンジョンの中にあり、主にスキルを「試す」場所として知られている。
 洞窟の空洞から沢山の道が枝分かれしており、それぞれが小部屋に通じている。なんなら道の手前に中の広さを示す看板までつけられている始末だ。
 コトワリは危険物を扱う時には、危険物対応の部屋を借りて瓶に移したり、試したりすることが多い。

Re: 【エデン】2025/7:お題「鍛錬の間」 - 秋待諷月

2025/07/27 (Sun) 17:09:56

(前回の「鮮やかな」とのダブルお題です)

***

色は咲く



 変わった色の花畑を見つけた、と、アロが鼻高々に報告したのは、とある日の午後、クラン「エル・ブロンシュ」拠点のリビングでのことだった。
 その場に居合わせたメンバーは、ダイニングテーブルに座っていたティトンとコトワリの二人。ティトンはナイフで大量のジャガイモの皮剥きをしつつ、コトワリは洗浄を終えた薬瓶を磨きつつ、揃って首を傾ける。
「変わった色って、どんな色さ?」
「キレイな緑色ー!」
「葉ではなく花が緑色、ということですか? それは確かに、少し変わっていますね」
 職業柄、植物にも造詣が深いコトワリは、緑色の花畑を思い浮かべながらコメントした。自然界において緑色の花自体は珍しくはないが、葉や茎に紛れてしまうため印象に残りにくく、人の目には「花」と映りにくい。アロが「花畑」と表現した以上、分かりやすく「花」と認識できる外見の植物が広範囲に生育していると推察され、珍しい景色のように思えた。人工的なものだとしたらなおさらだ。
 ティトンも同様の感覚を抱いたのか、「へぇ~」と興味津々である。皮を剥き終えたジャガイモを水を張ったボウルに沈めてナイフを畳むと、改めてアロに向き直る。
「それ、どこで見つけたの?」
「鍛錬の間。大名PIYO行列のあとについて入った道の、一番奥まで進んだとこで見つけたー」
「あそこかぁ。となると、僕も入ったことがない部屋かな」
 珍奇なPIYO観察報告を受け、コトワリは口をモグモグとさせたが、ティトンが注目しているのは発見場所のみのようである。
 アロが言う「鍛錬の間」とは、エデンの中でも危険性がかなり低いと認知されている、とある洞窟ダンジョン内の一部エリアの通称だ。
 始点となる大空洞から、複数の小部屋に通じる道が無数に伸びる構造になっており、各部屋は完全に独立している。ダンジョン特有の現象である「生き返り」こそ対象外であるものの、エデンの恩恵であるPIYOの自動修復は機能しており、物損や周辺被害、騒音等を気にせず存分にスキルを使用できることから、訓練やアイテム実験の場として冒険者たちに重宝されていた。
 部屋によっては同盟組合に管理されており、コトワリも時折、新ポーションの実験のために部屋を借用しているため、馴染みは深い。だが一方で、単純に使い勝手が悪い等の理由で、貸し出しの対象になっていない部屋も多かった。
 生粋のダンジョンオタクであるティトンですら把握していない場所だと知り、ふふん、と、アロが得意げに胸を張る。
「ティトンも知らないんだ? ひょっとして、オレだけが知ってる場所かなー?」
「あ、そんな風に言われたら発掘調査士の名折れだなぁ。そうとなればこの目で確かめなきゃ気が済まないよ。アロ、今から案内して! コトワリ、行くよ!」
 アロに怒ったわけではなく、むしろ楽しげに意気込んで、ティトンは勢いよく立ち上がった。アロはその場でくるりと一回転して両手を大きく広げ、「おっけー!」と請け負う。
「……え? 僕も行くんですか?」
 数拍遅れてようやく口に出したコトワリの質問は、はしゃぐ二人の耳には届かなかったらしい。「ほら早く!」「早くー!」と両側から引っ張り立たされ外へ引き摺り出されてしまっては、コトワリに抵抗の術などありはしなかった。



 PIYOの行列こそ発見できなかったものの、アロの記憶を頼りに進入した道は細かった。
 天井が低い上に左右の壁の間は極端に狭く、体を横向きにしてカニ歩きすることでようやく前進できるようなありさまである。小柄なティトンはまだしも、アロやコトワリは武器の大きさにも邪魔されて難儀すること度々だ。
 さらに、道はぐねぐねと蛇行し、明かりが無ければ何も見えないほど真っ暗で、その上のトドメとばかりに、とにかく長い。入り口から歩くこと早十分、行けども行けども一向に小部屋へ辿り着けない。
 魔獣の一匹、トラップの一つも見当たらないとは言え、部屋に行くだけでこれだけ骨が折れるとなれば、貸し出されていないのも大いに納得だった。
「だいた、い、こんな洞窟の奥に、花畑なんて、不自然過ぎるんです、よ……」
 巨大な杖を抱き込んでの横歩きという慣れない動きを続けているために、早くも疲労が見えてきたコトワリが呟いた。その背後、殿を務めつつカンテラを掲げるティトンが、「だからこそ!」と主張する。
「どんな場所か気になるんだよ。キノコやコケならともかく、日光も差さない洞窟の中に花が咲くってだけでも珍しいのに」
「……キノコやコケ、ですか」
 ティトンが発したそれらの単語に、コトワリはふと嫌な予感を覚えた。
 キノコやコケ類の中には、闇の中で黄緑色に発光する種が多数存在する。ひょっとして、もしかしなくても、アロが見た「黄緑色の花畑」とは、花に似た外見の発光キノコやコケの群生なのではないだろうか?
 ここまで苦労した挙げ句、最終的に対面するのがキノコかもしれないと考えた瞬間、コトワリの疲労はドッと増した。興味本位で見に来ただけのことなので、花だろうがキノコだろうが不都合は無いのだが、なんとなく気分の問題である。
 せめて食べられるキノコを収穫できれば夕餉には貢献できるが、高確率で毒キノコだろう。それならそれでポーションの材料になるかもしれないが、低ランクダンジョンで入手できる毒の効力などたかが知れている。
 ――などととりとめも無いことを考えていたコトワリは、そこでふと、思い出すことがあった。収穫と言えば。
「アロさん、さっきは花を摘んでこなかったんですね」
 カンテラの灯で照らされた先、幅が少し広くなってきた道の中央で揺れるピンク色の後頭部に、コトワリはそう話しかけた。珍しいものや面白いものを見つけると拾わずにいられない習性の持ち主であるアロが、花の一本も摘んでこなかったことが気になったのだ。背後でティトンも「確かに」と首肯している。
 後ろは振り返らず、迷い無くズンズンと前進しながら、「んーとねー」とアロは答える。
「摘もうとしたんだけど、摘めなかったんだー。固くてさ」
「固い?」
 コトワリとティトンが口を揃えて復唱したのと、アロが「着いた!」と叫んだのが同時だった。
 ぴたりと足を止めたアロに衝突しそうになったコトワリと、連鎖してティトンも急停止して、アロの両肩越しに道の先を覗き込む。ティトンのカンテラが暗闇を照らす。
 そこは、ぽっかりと広がる半球状の空間だった。
 人工的なものではなく、天井も壁も岩肌がそのままになった空洞である。高さこそ、一番低い場所であればコトワリでも手が届きそうなほどだが、床、というか地面は、アロがチャクラムを振り回しながら思い切り走り回れるほどの広さがある。
 ただし、アロがそれを実行することはないだろう。空洞の床一面を、膝から腰ほどの高さがある突起状の鉱物が埋め尽くしているためである。
 地面から生えたように見える石の色は、仄かに茶を帯びた乳白色。結晶のような形状の小さな石片が折り重なり、放射状に広がる様は、なるほど、花に似ていた。

 ここは石の花畑だ。

 思いがけない光景に、コトワリとティトンは「おお」と感嘆を上げ、遠目にしげしげと石を観察する。
「これは、水晶ですかね? それとも鍾乳石の一種?」
「うーん、どうだろう? 形だけならフラワーアメジストみたいだだけど、水晶だとしたら、採掘された様子が無いのは妙だよね。市場価値の無い鉱石なのかも」
 コトワリの投げかけを受け、ティトンは花のような姿を持つ希少鉱石を例に出しつつ考えを述べる。「鍛錬の間」は完全踏破済みダンジョンであり、誰にも知られていない部屋は存在しないはずだ。いくら道が狭いとは言え、宝石や希少鉱物の類が採掘できる部屋であれば放っておかれはしないだろう。
 そんな二人の考えなどお構いなしに。
「すごいのはこれからだよー。見てて!」
 これまで空洞の入り口手前でうずうずとしていたアロが、待ちきれないとばかりに両手を振ってアピールした。彼は青い羽根のような上着をはためかせながら、石の花が咲き並ぶ、その隙間に身を躍り込ませる。それと同時。
 一瞬にして、地面一帯が鮮やかな黄緑色に染まった。
「わぁ!」
「えぇ?」
「ねー!」
 ティトンが感動の、コトワリが驚きの声を上げ、振り返ったアロが満面の笑みを浮かべる。
 光るキノコやコケに似た蛍光色の源は、花のように咲き誇る鉱物全体。ティトンがカンテラの灯を消せば、黄緑色の光はいっそう輝きを増して闇に浮かび上がる。光の中でくるくると踊るアロの姿は、確かに「変わった色の花畑」の中にいるようだった。
「これは面白いね。動物が近付くと光る性質なのかな?」
 もっと近くで観察しようとしてか、ティトンが空洞に足を踏み入れた、その時、さらなる異変が起きた。石の色が、黄緑色からエメラルドグリーンに変じたのである。
 え、と、今度はアロも含めた三人同時に目を丸くする。アロも初めて見る現象なのだろう。先までより青みを帯びた、だが相変わらず鮮やかな色の花が咲き乱れる様に、アロとティトンはいっそう興奮する。
 空洞の入り口手前から動くことなく、遠目に二人を眺めているうちに、コトワリはあることに気が付いた。
「アロさん、ちょっとこちらに戻ってみてくれませんか?」
 ちょいちょいと手招きをして呼びかけると、アロは特に疑問も持たない様子で「いいよー」と舞い戻ってくる。彼が空洞から道に踏み入ると同時、石の色が再び変じた。今度は涼やかな水色へと。ティトンとアロが「おお」と目を見張り、コトワリは「やっぱり」と確信を深めた。
 最初に見た黄緑色は、アロの首の後ろに浮かぶ、三角形を二つ並べた光と同じ色。そして今見ている水色は、ティトンの首の周囲に浮かぶ二重円の光と同じだ。
 この石の花は、どうやら、空洞内に入ってきた者のハロの色に影響を受けて発光しているらしい。故に、アロとティトンが同時に入った際には、二人のハロの色を混ぜ合わせた色になったのだろう。
 なんのためにそんな性質を持つのかは分からない。あるいは近寄る者のハロを吸い取る消耗系トラップなのかもしれないが、こんな不便な場所にあっては通りがかる者も稀であり、罠の意味はほとんど無いだろう。「なんのためにあるか分からない不思議な場所」など、エデンにおいては珍しくもなく、この空間もその一つだと推測された。
 アロとティトンは取っ替え引っ替えに空洞を出入りしては、キャッキャと色の変化を楽しんでいる。ハロの色との関係性はさすがに気付いたようで、黄緑色と水色の花を愛でることに満足したらしい二人の目が、ギラリとコトワリの右手首を捉えた。そこに浮かぶのは、円と正方形が組み合わさった、淡い朱色に光るハロである。
「ねーねー、コトワリさんもおいでよー。一緒にお花見しよー!」
「三人で同時に入ったら、どんな色になるか試してみようよ!」
 花畑の中から手を振られ、さらには無邪気な視線を向けられ、コトワリはその輝く瞳の眩さに「うっ」と身じろぎした。つい目を逸らし、伏し目がちに言う。
「僕は、その……遠慮しておきますよ」
 その返答に、きょとんと目を瞬かせる二人の純朴な眼差しが、なおコトワリの気まずさを増幅させる。
 別に何も、遠慮する必要などは無いことはコトワリも分かっている。ただ、想像してしまったのだ。二人のハロの色に、己のハロの色を混ぜたらどうなるのかを。
 あの綺麗なエメラルドグリーンに、この褪せたような朱色が混ざったら何色になるか? 恐らく、濁った薄緑か灰茶色になる。明るく眩しく、あの二人の人柄をそのまま反映したかのような鮮やかな色を、自分の色が台無しにしてしまうようで、それがなんだか憚られた――にも、関わらず。
 がしっ、と。
 いつの間にやら目の前に寄ってきていた二人に両腕を掴まれたコトワリは、そのまま空洞内に引きずりこまれてしまう。ちょうど先ほど、クランから外へと引っ張り出されたときと同じように。
「いいから、ほら、早く!」
「早くー!」
 花以上に満開の二人の笑顔。「いえ、ですから僕は」と、コトワリが二人の手を振りほどこうと悪あがきをする、その前に。

 花の色は変じた。
 黄緑と水色、そして、淡い朱色の三色に。

 各色の花の本数はおよそ均等だ。色ごとに固まって咲いているわけではなく、それぞれの色の花が仲良く混ざり合って、調和を乱すこともなく鮮やかな色を咲かせている。
 どうやら石は――いや、この空洞の「花畑」は、三つ以上のハロを同時に感知した場合には、色を混ぜることなく、色の数だけ花を塗り分ける性質があるらしい。
「これは……アリなんですか?」
 呆気に取られて呟くコトワリの傍らで、ティトンが「あはっ」と嬉しそうに笑った。その逆横から、アロが歓声を上げて花畑に突撃していく。見れば三色に染まったPIYOたちが、そろぞろと列を成して石の花の間を練り歩いていた。
「今度はイロハとクエルも連れてこようか。五人で見れば、きっと、もっと綺麗だよね」
 コトワリの顔を覗き込んで、悪戯っぽくティトンが言う。
 この三色の花畑に、今ここにいない二人のハロと同じ、金と銀の花が加わった景色を想像して、コトワリは「そうですね」と微笑んだ。
 数歩進んで膝を折り、朱色に光る一輪の花に手を伸ばして触れる。「綺麗だ」と素直に思えた。
 視界に入った己の手首に浮かぶ色も、いつもより少しだけ、鮮やかに見える気がした。



 Fin.


Re: 【エデン】2025/7:お題「鍛錬の間」 - 淡島かりす

2025/08/22 (Fri) 14:17:05

 クエルはその日、朝食を皆と済ませたあとにあることに気がついた。コートのポケットや部屋などを一通り探したあとに、どうやら間違いないと確信を得ると、鍛錬の間へと向かうことにした。
「まぁ、あんなものを落とすのはあそこしかないしな……」
 鍛錬の間にいき、完全密室になる小部屋を借りたのが数日前のことである。クエルはそこで或る缶詰を開けた。缶詰の蒐集を趣味とするクエルには、同じ趣味を持つ仲間もいる。たまに余剰に手に入れてしまったものや、自分には使い道がないものなどを交換する機会も多い。その時開けた缶詰も、『三日月』にいるトルン・トーレという者から譲り受けたものだった。「影缶」と名前のつけられたその缶は、まず開けると一番近くにいた人間の姿の影を作る。戦闘に使っても良し、雑務を手伝わせても良し、というなんとも便利な代物なのだが、まだ試作段階で周囲に複数人いると影を作るのに失敗してしまうし、消失までの時間も不安定とのことだった。クエルはそれを鍛錬の間で試した。鍛錬の相手としては申し分なかったし、何も指示をしなくても動いてくれるのは助かった。しかし現状はそれぐらいしか使い道がなさそうだった。
 どうやらその時、携帯用の缶切りナイフを落としたらしい。缶切りナイフというのは、文字通り缶詰を開けるためのものである。少し前に手に入れたのだが、ダンジョンに行くときは盟主が張り切ってお弁当を作るし、自室にも愛用の缶切りがあるので使いどころがなかった。そのためその日だけ持ち出したわけだが、どうやらそれがいけなかったらしい。ナイフ自体は大したものではないのだが、放っておくのも気が引けた。
「まぁ誰かに拾われていたらそれまでだが」
 大丈夫だろう、と特に根拠もなく考える。缶切りナイフは特に殺傷能力もない小さな作りで、本当に缶詰にしか使いようがない。それに刃の部分を柄にたたみ込めるようになっていて、そうしてしまうと掌に隠れてしまうほど小さくなる。普通のダンジョンならまだしも鍛錬の間で足元を気にして歩く者はいない。
 そう考えながら鍛錬の間に到着したクエルは、前に使っていた部屋を目指して奥へ進んでいく。いくつかの分岐があるが、どれもわかりやすい説明書き付きなので、相当な方向音痴でもなければ迷うことはない。それに数日前に行った場所くらい覚えている。
 記憶に新しい道を進んでいくと、ふと途中で嘆くような声が聞こえた。
「あー、もうなんてこと……どうしてこう運が悪いのか……」
 どこから聞こえてくるのか。気になって周囲を見回すと、左手側の通路で地面に這いつくばるようにしている人影があった。倒れているのかと思ったがそういうわけではなく、どうやら何かを探している様子だった。自分と同じように何か落としたのかも知れない。そう思ったクエルは声を掛けてみることにした。
「おい、あんた。どうしたんだ?」
「んぇ?」
 少しくぐもった声にはあまり似つかわしくない間の抜けた言葉を放ちつつ、その人物は顔をあげた。しかしその表情はよくわからなかった。なぜなら、顔と体の殆どが衣類などで隠れていたためである。動きやすい黒い服に防塵加工をしたごわついた生地の白いコート。コートのフードを眉下まで引き下げ、首を守るマフラーは逆に鼻の上まで引き上げている。赤色のレンズが入った大きな眼鏡をつけていて、そのせいで目の色すらわからない。
 しかし膝の土を手袋を装着した手で払って立ち上がった姿は、随分と小さかった。ティトンよりも更に背が低い。
「これはこれは、失礼いたしました」
 相手は小さく頭を下げる。フードに兎耳がついているのがその時見えた。
「実は、そこの隙間にゴミが落ちていまして。」
「ゴミ?」
 相手が指さしたところには岩と岩の隙間があった。覗き込むと焚き火をする時などに使う火バサミが見える。そしてその先に破れた火薬袋があった。
「道具を使って取ろうとしたら、それすら取りこぼしてしまって。いやはや、手は入るのですが指が届かず。どうしたものかと思っていた次第です」
 その足元には、さきほどまで体に隠れてわからなかったが背負い紐のついた籠が置かれていた。中にはゴミらしきものが沢山入っている。
「ちょっとそこどいてくれ」
 クエルは相手に体をずらしてもらうと、手を岩の間に入れた。そして火バサミを掴むと、ついでに袋もつかみ取る。後ろで「おぉ」と短い拍手が聞こえた。
「ほら」
「ありがとうございます。大変助かりました」
「あんた、ゴミ拾いしてるのか?」
「えぇ、鍛錬の間には要らないものを棄てていく不届き者が多いのですよ」
 受け取った火バサミをカチカチ鳴らして、相手は首を左右に振る。
「元々、専門は魔物などがドロップする物の研究なのですが、色々なものを拾っているうちにゴミのことも気になってしまいまして。それで自主的にゴミ拾いを」
「あぁ、ドロップってあれか。攻撃や追跡過程で魔物が落とす羽や鱗」
「そうです。糞なども調べますよ。ドロップしやすい地形とかそういうのもありまして。そういうところでしたらランクの高くない方も安全に貴重なものを手に入れられるのです」
「なるほど、そういう視点はなかったな」
「いやはや、それにしても助かりました。この火バサミは気に入っておりまして。これで今までいくつのものを拾い上げてきたことか。あ、申し遅れました。ルー・ユエトゥと申します」
 ルーはマフラーを首まで下げてから名乗り、再びお辞儀をした。兎のような少し窄まった口だった。
「俺は『エル・ブロンシュ』のクエルクスだ」
「クエルクスさんですね。……おや?」
 ルーは首を傾げたと思うと、後ろを向いて籠の前に屈み込んだ。そして暫く中を漁っていたが、やがて何かを手に取った。
「もしかしてこちら、クエルクスさんのではありませんか?」
 差し出されたのは小さな缶切りナイフだった。まさにそれを探しに此処まで来たクエルは驚きながら頷く。
「うっかり落としてしまって探しにきたところだ。でもよくわかったな。名前なんか書いてないのに」
「これです」
 ルーが右足を持ち上げる。膝のところに大小の丸を重ねたハロが赤く輝いていた。小さな丸が大きな丸の内側、右上寄りに接している。まるで兎の瞳のように見えた。
「物に宿った思念を辿ることが出来るスキルなのですよ。戦闘には不向きですが、調査などには非常に役立つのです」
「それで缶切りナイフに残っていた俺の情報を得たってわけか」
「いやはや、随分大事に使っていたようですから、落とし物ではなさそうだったので他のゴミとは分けて入れていたのですよ。早めに返せて安心しました」
「俺もあんたに拾って貰って助かった。まだゴミを拾うのか?」
「いやいや、そろそろ終わりです。これからまだやることがありまして」
「やること?」
「はい。このゴミを然るべきところに持って行かないといけないのです」
「あぁ、浄化ダンジョンか」
 不要物などを飲み込み、一定量に達するとレアアイテムと交換してくれるダンジョンが存在する。どれほどの量を入れればいいのか、何が出てくるかもわからない不思議なダンジョンだが、それが却ってギャンブル性が高いということで冒険者達に好まれていた。
「あそこは便利ですよね。素敵なものをくれたりしますし」
 うんうん、とルーは頷いた。
「でもそこは一番最後です。返せるゴミを全部返し終わって、それでも余ったものを入れに行くんですよ」
「返すって……」
 籠の中身と、膝のハロを交互に見たクエルは、「まさか」と呟いた。
「ゴミを全部落とし主に返すのか?」
「ポイ捨てはよろしくないですからね」
 ルーは胸を張ってそう言った。
「これを繰り返すことにより、段々とゴミを棄てる方が減っているのです。とても有意義なことですよ」
「なんだか……気が遠くなるような作業だな」
「いえいえ、ダンジョンの景観を守るには欠かせないことです。まぁあまりハロが大きくないので数日がかりですが」
「聞いているだけで大変そうなんだが」
「まぁ好きでやっていることです。おーっと、こうしてはいられません」
 ルーは慌てて籠を背負った。
「お話するのが楽しくてついつい時間を消費してしまいました。実は他のクランメンバにも手伝って貰っているところでして。そろそろ集合時間なので行かないと」
「あぁ、気にしないでくれ」
「それでは失礼します」
 跳ねるように走り出したルーを、クエルは一度呼び止めた。
「あんた、どこのクランの人間だ?」
「おや! 申し上げておりませんで失礼しました」
「あー、お辞儀すんな。ゴミ全部落ちるぞ」
 頭を下げようとする相手を制止する。ルーは「おっとと」ととぼけた声を上げた。
「所属クランは『星期三的猫』です。またいつかどこかでお会いしましょう」
 手短に所属を述べて、ルーは今度こそその場から立ち去った。残されたクエルは、顔見知りレベルの染物屋や学者風の男のことを思い出す。一緒に彼らが不定期に行っている「違反者の洗い出し」も。
「あのクランの連中って、あぁいうのばっかりなのか……?」
 ルールを守る事が好きな者ばかり集まっている可能性も否定出来ないが、なんというかそれ以前の人柄的な問題も関係している気がする。クエルはそう思ったものの、それ以上口に出すのは控えることにした。代わりに非常に些細な、どうでもいい感想を口にした。
「星期三的猫なのに兎なのか……」


END

Re: 【エデン】2025/7:お題「鍛錬の間」 - あさぎそーご

2025/09/04 (Thu) 16:04:16



「コトワリさん、暇でしょ?」
「いえ、アロさん。暇なわけではないんですよ?」
 否定に構わず、笑顔のアロはカウンターに頬杖を付く。困ったコトワリはとりあえずの説明を試みた。
 本日、彼は自身が経営する雑貨屋ではなく、鍛錬の間の受付に座っていた。
 なぜかというと、普段から《《お世話に》》なっているクラン「パレス・オーダー」……通称【秩序】に所属するエリックに助っ人を頼まれたからだ。
【秩序】は普通の冒険者があまりやりたがらない、クラン総括部から出される事務や警備、ダンジョンの巡回などのクエストを引き受ける、そこそこ大きなクランだ。駆け出しの冒険者達がここで場数を踏んで、卒業し、新たなクランへ旅立っていくことも少なくない。【秩序】なくして他のクランは回らないとは誰が言った言葉か。とにもかくにも、誰もが一度は彼等【秩序】に助けられたことがある。
 そんな中、不本意ながら常連になってしまっているコトワリは、日頃から人手不足の彼等の頼みを断る理由などなく、店を早めに切り上げて受付の仕事に勤しんでいるわけだ。
 店を閉めるにあたって、立ち寄ったアロに事情を話して追い出す形になってしまったのだが、彼はコトワリが受付に座るなりやってきて、先のセリフを告げたのである。
 鍛錬の間の受付は入退場者全員に所属と名前を書いてもらい、退出後に清掃担当に知らせる……本当に簡単な仕事だ。鍛錬の間全てを管理しているわけではなく、入り口付近の混み合う部屋だけなので、頻繁に人が訪れるわけではない。しかし誰かがいないと管理にはならない…雑貨屋の店番と似たようなものである。アロもそれをよく知っているからだろう。名簿を眺めるコトワリの弁解を聞き流し、適当に頷いた。
「うんーでも、暇だよね?じゃあこれあげるー」
 有無を言わさず…いや、言うことはしたが聞き入れられずに押し付けられたのは、真っ白な葉と薄紅色の鉱石。それと、青味がかった硬質の枝。
「それでどんなポーションできるー?」
 ワクワクと問うアロの言葉通り、これらはポーションの素材の差し入れである。
 コトワリが頼んだわけではない。アロは素材を組み合わせ新しいポーションができる事そのものに興味があるらしく、時々こうして目に付いた素材を提供していた。
 コトワリも素材が手に入ることはありがたいし、なにより自分のスキルに興味を持ってくれている喜びもあるので、お互いWin-Winな関係だったりする。
 筆頭はアロだが、白羽の銘は「隙あらば猫」。他のメンバーも珍しい素材が余ったら、ポーションの材料にと持ってくるのがお決まりとなっていた。組み合わせ次第で別のものができる、というのは好奇心の塊にとっては最大の娯楽なのかもしれない。
 かくいうコトワリ本人も、レシピ収集のため精製に夢中になって倒れるのが日常茶飯事になっているとかいないとか。
 現状にピッタリな差し入れを押し返す理由もなく、コトワリは礼を述べてカバンから器具を取り出した。アロに手伝ってもらいながら素材を砕き、フラスコに収める。そこに、知った顔が3人やってきて受付表にサインをしはじめた。
「みなさんお揃いで鍛錬ですか?」
 コトワリが皮肉めいて尋ねると、順番に答えが返される。
「いや、アロに呼ばれた。オマエがここに半日缶詰だからって」
「新しいポーションの実験したいんだって。僕も行き詰まったとこだったし、気晴らしに丁度いいなって」
「素材、かき集めてきたから即興で作って貰おうぜって」
「そうそうー楽しそうだなってー」
 クエルクス、ティトン、イロハ、アロと続く間にサインを終えたクランの仲間達。コトワリは呆然としながら空いている部屋の札を渡し、数秒後に我に返った。
「これ全部精製するんですか?」
 サインの片手間カウンターに並べられた素材達を見下ろす彼に、仲間達はまた順々に答える。
「全部じゃなくていいよー?」
「折を見て取りに来るから、よろしくな」
「つか、新作のポーションあるだろ?よこせ」
「心配しないで。効果はちゃんとメモして、後でまとめるつもりだから」
 差し出された4つの手を数秒眺め、コトワリは背負っていたカバンから手頃なものを手渡した。


 4人に割り振られた部屋はそこそこの広さがあり、天井も高い。洞窟なので床以外の凹凸は激しいが、どのみちどの部屋も条件は一緒だろう。
 壊してしまってもPIYOが修復してくれるので心配はないが、逆に外から持ち込んだもの……部屋番号やコトワリが座っていたカウンターなども《《修復》》されてしまうので、毎回外の倉庫に運ばなければならないのが大変だと、【秩序】のメンバーに聞いたことがある。思い出しながら、ティトンはリュックサックを床に置いてハンマーを担いだ。
「さて。どれからいく?」
 比較的平らな床に並んだ色とりどりのポーション。右から順に、コトワリから説明された効力を読み上げる。

 パワーアップ
 魅了
 収縮
 アンチマジック
 発光

 ……どれがどの程度の時間、どの程度の効力を発揮するのか。そしてどう戦闘に役立てるのか。これから自らを被験体に試していくわけだ。
 ポーション自体はコトワリが精製し、鑑定所で鑑定したものではあるが、細かいところまでは試してみるまで分からない。そのため、白羽の中で鍛錬の間を利用する機会が比較的多いのはコトワリだろう。
「読み上げた順でいいだろ」
「とはいえ、どうパワーアップするのかな?」
「文字通りでは?」
 言いながらクエルクスが拾い上げたのは、透明度のある赤いポーション。それをそのままアロに放る。
 アロはわーいと受け取って蓋を開け、飲み干した。
「そこの岩とかどう?」
「よーし…えーーい」
 ぺたぺたと駆け寄り、巻き付く。アロがギリギリ抱えきれる程度の、しかし普通なら持ち上げられない大きさの岩がミシミシと音を立てる。
「んーー持てそうで持てないーー」
 早くも諦めたアロが手を離すと、小さな地響きが。一見分からなかったが、数センチは浮かんでいたのだろう。
「素手で割る!とかは?」
「えー手が痛くなっちゃわないー?」
 パンチの仕草をするティトンにアロが首を振った。
「まあ、うちには積極的に殴り合うタイプはいないからな」
 前衛のクエルクスもアタッカーのティトンも、ヒットアンドアウェイが多く取っ組み合いになることは少ない。中衛のアロは勿論。強いて言うなら対人でのイロハくらいだろうか?
 従って、白羽でパワー系のポーションが使われる機会は少ない。コトワリも理解していて、試しにと渡したのだろう。
 イロハとクエルクスが考察していると、走り回っていたアロが楽しげに笑った。
「おー!でもティトンが軽々!」
「すごーい!見てみて!大道芸みたい?」
 アロの片手で軽々持ち上げられたティトンがバランスを取る様は、確かに芸と呼べなくもない。
「成る程。荷物運びには便利か」
「間違って荷物壊さないようにしないとだな」
「持続時間もそこそこみたいだね」
「じゃあさー、このままこれも飲んでみていいー?」
 ティトンを下ろし、アロは置かれたままのポーションのうち1つを手に取った。
「しゅーしゅく!」
 じゃーんと効果音を口で表現しながら蓋を開ける彼を、クエルクスとイロハが慌てて止めにかかる。
「まて。どう縮むんだ?」
「まずは岩とかで試した方が…」
「んー大丈夫と思うよー?」
 朗らかに飲み干された真っ青なポーションが、アロの体をみるみるうちに小さくした。
「ほらーやったー!ちびっこー」
 心配して屈んだ3人の前でアロが跳ねる。丁度掌サイズくらいだろうか?
「ちびっこっつーか…」
「小人?」
「踏みつぶさないようにしないと」
「つぶされないよー」
 気をもんで動けなくなった3人をよそに、アロはどこまでもマイペースだ。ティトンのブーツにへばりつき、持ち上げようと何度か唸る。
「んーーーー!ティトンのこと持てると思ったのにー」
 諦めて大の字に寝転がるアロにクエルクスが言った。
「パワーも一緒に縮んだな」
「いや、ポーションの効力が切れたのかも。こっちは持てそうか?」
 言いながら手頃な小石を拾い上げたイロハが、アロの側に置く。アロは起き上がって現在の顔ほどの大きさの石を頭の上まで持ち上げた。
「ふーん!」
「ドヤ顔」
「質量的な問題みたいだ」
「狭い部屋に小さな物を運ぶくらいはできる…と。うん、隙間から鍵を持って侵入…効果が切れたら解錠とか、できそうだよね」
 それぞれが見解を述べ、ティトンによってメモがされていく中、いつの間にか壁際に走っていたアロが楽しげに笑う。
「わーー!!PIYOが大きいーーーー」
 嬉しそうに持ち上げて、PIYOを運ぶ様は最早小動物に近い。
 アロがPIYOの密集地と仲間を何度か往復する間に、煙が立ち込めた。PIYOを掲げたまま元のサイズに戻ったアロは、残念そうに口を尖らせる。折角集めたPIYOも驚いて散ってしまった。
 アロは掌に乗せたままだったPIYOを地に下ろし、再びティトンを持ち上げる。
「パワーアップはまだ続いてるかもー」
「時間測ってるから、ちょっとアレ背負ってて?重くなったら教えてよ」
 メモを取る態勢のまま宙に浮いたティトンは、動じることなく自分のリュックを示した。まっかせてーーと、リュックに向かうアロを横目に、イロハがピンク色のポーションを避ける。
「魅了は……ちと怖いからスルーで」
 だな。とクエルクスも同意した。魅了にも色々種類があり、魔物相手の「友好化」や人同士の感情に作用するもの、仲直りに使うだけの簡易的なものまで様々だ。PIYOで試してもよかったが、生憎全部逃げてしまった。
 代わりに、とクエルクスが手にしたのは薄紫と薄青のマーブル色のポーション。
「アンチマジック。ティトンの属性で試すか」
「おっけー。じゃ、クエルが飲んでよ」
 指名を受けたティトンは軽く頷くと、懐中時計を横目にメモを置いて、代わりにハンマーを拾い上げる。イロハとアロが壁際に移動するのを待って、クエルクスはティトンと向かい合った。
「加減はしろよ?」
「大丈夫大丈夫」
 屈伸運動をするティトンの頭を眺めつつ、ポーションを呷る。淡い光がクエルクスを包んだ。
「いくよー?」
 声掛けに頷くと、一呼吸置いて炎が巻き起こる。刻印から吐き出される熱はそこそこ強かったが、クエルクスは大して熱く感じなかった。
 様子を見ていたアロがじりじり近寄り、大分離れた位置で立ち止まる。
「ねークエルさん、これめっちゃあつーーい」
 炎に手を伸ばしては引っ込める。アロの不思議な動きに眉を顰めながら、クエルクスはティトンを振り向いた。
 それを受けた彼はすぐに炎をしまい、切り替える。
「イエロー、ワン」
 合図と共に身構えるクエルクスの背後で、アロとイロハが身を低くした。見届けたティトンがハンマーを下ろす。
「トリガー!」
 掛け声を雷鳴が追いかけた。正面から受けたクエルクスが、顔の前で交差させていた腕を解く。
 ダメージはない。衝撃は感じたが、受け流せる程度だ。
 続けて他の属性を試すうちに、クエルクスを包んでいた光が失われていく。視覚的に効果時間が分かるのも優秀だ。
「これはかなり使えるな」
 肩の力を抜いたクエルクスが空き瓶を蹴り上げ、手に収める。ティトンも駆け寄りながら同意した。
「いいね!効果時間も、2分くらいあったし!」
「欲を言えば5分は欲しいか」
「ものによっては、材料の量で調整できるってー。前にコトワリさんが言ってたー」
 イロハとアロも会話に加わり、残りのポーションを輪の中央に提示する。
「これは…発光だっけ?」
「光のポーションとどう違うんだ?」
 ティトンに続いて、イロハも首を傾けた。
 普段コトワリが使っている光のポーションは、物質にかけると一定時間光りを帯びるという単純な代物で、ランタン代わりに使われることが多い。
「おんなじ効果かもー」
「ま、試してみる他なかろう」
 アロに頷いたクエルクスが瓶の蓋を開ける。
 近場の岩に数滴垂らすも変化は見られず、更に半分程注いでみてもなにも起きそうにない。
 一同首を捻る中、アロがどさっとリュックを下ろした。
「重いー」
「効果切れた?大体15分くらいかな。優秀優秀」
 ティトンが耳からペンを拾ってメモする間、アロはクエルクスに歩み寄りポーションを覗き込む。
「貸してー?」
 差し出された瓶を受け取った彼は、下から見上げたり上から見下ろしたりした後、徐に掌にポーションを注いだ。
「うわ??」
 唐突に訪れたのは溢れんばかりの眩しさ。思わず目を覆ったティトンの腕を、発光するアロが掴む。
「アロ、ちょっ…」
 掴まれたことで自身も光ったことに驚いたティトンがイロハに接触。アロの動きを制御しようと手を伸ばしたクエルクスにも発光は伝染した。


 数分後



 受付でハロを酷使していたコトワリが、近づいてくる光に目を細めて抗議する。
「ちょ…みなさん、まぶし……」
 辛うじて光の塊の正体を認識できたのは、見える前からアロに名前を呼ばれていたからだ。アロは受付のカウンターに身を乗り出して朗らかに言う。
「コトワリさーん、直して?」
「解錠するポーションないか?」
「というか、効果いつ切れる?もう10分はこのままだよ??」
「つかなんだこれ。岩は光らんかったが?」
「えっと……すみません、ぼくもよく分からなくて……」
 立て続けに問い詰められ、引き気味になりながらもカバンを漁るコトワリの腕をアロが掴んだ。
「ひっ…」
「わーい、コトワリさんもおそろいー!」
 彼に悪気はない。分かっていても、まさか道連れにされるとは思っていなかったコトワリが羞恥に震える。コトワリは単に目立ちたくないだけ。逆にアロは状況を楽しんでいるだけで、コトワリにも楽しさを共有したかっただけだ。
「とりあえず教会だな」
「かなー?」
「1日光りっぱなしとかだったらどーする?踊るー?」
「間違いなく街中で噂になるのでクランルームに引きこもります」
「いや、原因オマエの作ったポーションだが?」
 愉快なビジュアルに反して半数以上が困った顔をする中、更に仲間を増やさんとダンジョン管理をする【秩序】のメンバーに接近するアロが、クエルクスに首根っこを掴まれ引き戻された。


 後々分かった正しい「発光ポーション」の使い方は以下の通り。
 生体に反応して光り、居場所を知らせるものらしい。本来なら地面に撒いて、魔物などの足跡を光らたりして追跡するのだとか。
 間違っても直接かけたりしてはいけないと、身を持って知った白羽メンバーであった。

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